寒くて家から出たくない、頭がごちゃごちゃするときは、部屋の片付けをして、料理をして、掃除をすると良い。
昔、国語の先生が授業中に言っていた井伏鱒二の作品を読んでみるのも良い。
「ハナニアラシノタトへモアルゾ サヨナラダケガ人生ダ」
このフレーズはなんという小説の一文だろうと思ったら、それは漢詩を訳したものだった。
あたりまえだけど、漢字しかない漢詩。その直訳と井伏鱒二の訳はちょっと違った。直訳にはない情景が目に浮かぶ。
私は節目節目で、あの訳した漢詩のフレーズが頭に流れる。
本当に「サヨナラダケガ人生」なのか。いままでを振りかえってみる。
「サヨナラ」したものは数多い。
お気に入りだった服、好きだった人、ぬいぐるみ、壊れた携帯、あげるとキリがない。そのタイミングで自分に必要だったもの。自分で選んだり、まわりまわって手元にきたりもらったりして、得たもの。いまは持っていないものがたくさんある。でもいま、持っているものもたくさんある。いま好きな服、いま話したい人、いま食べたいもの、いましたいこと、こちらもあげるとキリがない。
この連載を始めた頃は、自信が本当になかった。
私なんかが書いて良いのかな? 私なんかが表紙で大丈夫かな?
読み返すと、ハチャメチャな文で笑えちゃうけど、あの時も頑張っていたんだ。
でもいまは、もう大丈夫。
ちゃんと働いて、ひとり暮らしして、自分のために料理もしてる。自分のことを大切にできている。
「サヨナラ」してきたものがあったからこそ、いまの自分がいる。
色々あったけど、「いま」がいちばん良いと思った。
もしもあの頃の私に会うことができたら、
「大丈夫だよ、ちゃんとしあわせだ、よかったと思う瞬間がくるよ」 と伝えたい。
そう思うと、次に進むのも悪くない。
20回の連載、ご愛読いただきありがとうございました! またどこかでお目にかかれますように。
2020年3月吉日 けしごむはんこ あやとりや
「あやとりや」という名前で活動しているけしごむハンコ作家です。 宗像は初めての就職先だったり、作家として活動するようになってからも、何かと御縁を頂いております。この連載では宗像の事のみならず、日常で心が動いたことをお伝えできたらなと思います。どうぞ、ゆるゆるタイムのお供になれば・・・。